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仙台高等裁判所 平成3年(ラ)128号 決定

抗告人

株式会社木村鉄工所

上記代表者代表取締役

木村正彦

主文

原決定を取り消す。

本件を青森地方裁判所に差し戻す。

理由

1  抗告人は、原決定を取り消して抗告人に売却を許可する旨の決定を求めたが、その理由は、

平成元年(ケ)第215号競売事件で期間入札に付された競売物件に対し抗告人が入札するに当たり、入札書の事件番号欄に「平成元年(ケ)第215号」と記載すべきものを誤って「平成3年(ケ)第215号」と記載した。これは明白な誤記であり、訂正しようとしたが入札書を入れた所定の封筒を閉じてしまったため訂正できず、その代わりに封筒表面の同様の誤記部分である「3」を「元」と訂正した。

また、入札保証金振込証明書も「平成元年(ケ)第215号」と正しく記載した。従って、入札書の事件番号の記載が誤記であって、抗告人が平成元年(ケ)第215号事件における入札に参加した意思は明白である。また、今回の入札に参加したのは抗告人だけであったから、抗告人を最高価買受申出人として売却許可するに支障はなく、開札した執行官も抗告人の入札を有効とした。しかるに原審が売却手続に誤りがあるとして売却不許可決定をしたのは違法である。

というものである。

2  一件記録によると、抗告人は、入札書の事件番号欄に「平成元年(ケ)第215号」と記載すべきところを「平成3年(ケ)第215号」と誤記したほかは入札書を完全に記載し、この入札書を封入した所定の封筒には「平成元年(ケ)第215号」と正しく記載し(「平成元年(ケ)第215号」と記載した「3」を「元」と訂正して入札書と同じ印鑑による訂正印を押捺した。)、入札期間内に入札したこと、抗告人以外の入札者はなく、開札期日に開札した執行官は抗告人の入札を適法な入札と判断して、抗告人が最高価買受申出人であるとする期間入札期日調書を作成したこと、が認められる。そうすると、前記の事件番号の誤記が他の事件、すなわち平成3年(ケ)第215号事件と混同するおそれが無かったものということができる。

開札手続が簡易、迅速に行われるべきものであるため、入札書の記載は、解釈の余地を容れない一義的なものでなければいけないとの考え方は理解できるが、そうであっても本件においては上記入札書を封入した封筒の記載と相俟って本件事件における入札であると一義的に解釈できない訳ではなく、執行官もこれを有効としたのであるから敢えてこれを無効として売却不許可とすることはなかったものと思料される。

3  よって本件抗告は理由があり、原決定を取り消して原審において抗告人に対する売却の許可を審理させるのを相当と認め、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官武藤冬士己 裁判官齋藤清實 裁判官小野貞夫)

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